聞きたいことは山ほどあった。
一週間の内に増えた見知らぬ雑貨類の出どころと部屋の隅にある3つの段ボール。聞けば全て新羅が用意して、セルティがここに運んできたという。食材も着替えも全て用意してくれたあたり一応世話を焼く気はあるらしい。しかもあれからセルティは毎日ここに顔を出しては少し話をして要望があれば届けにくるというサイクルができていた。単にがこの辺りの地理に詳しくないのと、下手に出歩いて臨也に見つかることを忌避してのことだろう。だがそれはつまりこの部屋を訪れて以来、は一週間丸々引きこもりになっていたということだった。




「よくそんな家にばっか居られたな」
「それに、鍵は1つしかありませんから……いつお帰りになるとも伺っていませんでしたし」
「あー」




が家を空ければもし静雄が帰ってきたときに部屋に入れないと思ったのか、しばらく泊まるといって鍵を渡したのに使われないんじゃ置いていった意味がない。だけど使うに使えない状況を作ってしまったのは静雄自身だ。ちょっとコンビニに行く程度ほどにも部屋を空けることもなく、ただひたすら帰りを待っていたなんて――なんとなくという人間が少し分かってきたような気がして、携帯を取り出し時刻を確認してからに向き直る。




「なら今から少し出るか」
「え?」
「この辺のことぐらい知っとけ」




お前も引きこもりたくて引きこもってるわけじゃないんだろうしな、と口に出さずに続ければは大きく頷いて笑みを浮かべる。そういちいち幸せそうに微笑まれると自分が何か喜ばせるようなことしたんじゃないかと変に勘繰ってしまってその真意がよく分からない。別に本人は深く考えてはいないんだろうが、自分と日常会話がこんな順調に続く人間が少し久しぶりだったような気がした。


臨也や新羅のような必要以上の単語、遠回りな言い方、無責任な言動は気に入らなくてすぐに沸点が上がるが、の初めて会ったときから変わらない物腰柔らかな敬語は別にわざとらしいものではないと思うし、言葉にする必要のないものは表情が雄弁に語る。まばたきや指の些細な動きまでもがの感情の端々が伝わってくるようだと思った瞬間、自分自身がそんなに他人の動きなんて見ていたことがあったかという疑問が浮かんだ。




♂♀




『一週間も放置するとは思わなかったぞ』
「それに関しては正直反省してるよ」




久しぶりに会った友人との話題は必然のごとくのことになった。セルティは静雄が家に帰った次の日以来うちに通うことはなくなり、はその日一緒に出かけた先で作った合鍵を使い、今は自分で買い物に出ている。本人が希望した図書館にも案内したし、さらに貸出カードも作ってやった。その時のの反応も含め、セルティに報告するば『上手くいっているようで安心した』と胸を撫で下ろされる。だが意外に思ったのは静雄のほうだった。会ったばかりの他人と一緒に住めと無茶を強いられて、いつもだったら理不尽さに怒りが沸き起こる。それなのに静雄は自然にを受け入れ、今では早く帰ってが作った飯が食いたいとすら思い始めていた。




「ここんとこずっと忙しかったんだろ? わざわざ悪かったな」
『いや。私もに聞きたいことがあったから』
「聞きたいこと?」
から何も聞いてないのか?』




今度はセルティが意外そうにするとPDAに『読者なら首の所在を知っていると思ったんだ』と追記する。そんなこと一言も聞いていなかったが、それ以前には自身が知っていることをあまり話したがらなかった。静雄もにこれからの自分がどう書かれているのか訊いたことがある。その時は酒が入っていたこともあって、愚痴交じりに絡んで自分が自分の中にある≪暴力≫に勝てるのかと捲し立てた。それでもは妙な説得力をまとわせながら「心配しなくても大丈夫です」と優しく返すだけで、セルティも似たような言葉で避けられたらしい。




『よく分からないがにそう言われると本当に大丈夫な気がするよ』
「あー……分かるかも」
『私がいうのもなんだが彼女は不思議だ。異世界人っていうことを差し引いてもあの雰囲気は人柄かな』
「それについては俺が一番実感してる」
『そうだろうな……そろそろ時間だ。昼休みを削って悪かった』
「いいよ。事務所戻って飯食うだけだし」
『またカップ麺か』
「いや…………なんつうか」




突然言い淀む静雄にセルティはバイクに跨ったまま地に足をつけた。先を促すように静雄に向けば、静雄はすでに半身背を向けて何かを誤魔化すように頬を掻く。




が……弁当、用意してくれたっていうか」




尻すぼみになっていく言葉を言いきらないうちに「じゃあな」と後ろ手を振って静雄は歩き出していた。が合鍵を使って初めて買い物に出た日に買ってきたものは食材と弁当箱だったことは、いくらセルティ相手でも言えはしなかった。それと「静雄さんの食生活が本当に心配だったんです」と言い加えられたことも。


残されたセルティは遠くなる背中を見送り、今何が起こったのか存在しない頭をフルに回転させて考えていた。去り際に浮かべた静雄の表情は見えなかったが、なぜか手に取るように分かる。セルティはふいに胸に温かいものが広がり、エンジンを嘶かせて車道に出た。早く仕事を終わらせて、今日は新羅に料理を作ってやろう。逸る気持ちを表すように、ひと際大きくエンジンの嘶きを池袋中に響かせた。














少女Xが与える世界への影響
20100320












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