宇宙誕生から約137億年。地球誕生から約46億年――。
そろそろ私も本気を出す時が来たようだな・・・!





「吐け。お前は何者だ」
「ごめんなさい」





――私の本気なんてミジンコの筋力レベルです本当にごめんなさい。
沖田さんの爆弾飼育宣言から丸一日部屋に立てこもった結果。どういう結論に達したのか様々な条件の元、私をここに置いてくれる運びになったらしい(おそらく近藤さんの情と沖田さんの駄々、それに山南さんの怪しい思惑に土方さんが折れたのだろう)。条件というのはまず男装。隊規に女人禁制があるのはもちろん了解していたから今更驚くことはなかった。むしろ現代っ子の私からしたら今借りている平助君のおさがりのほうが助かるというのが本音。だって女性の着物なんて自分一人じゃ着れないし、苦しくってしょうがないし。そもそも日本髪結えるほど長くないし。次の条件が許しがある以外与えられた部屋から出てはいけないということ。しかも沖田さんが勝手に連れ出すことは禁止で、最低もう1人幹部以上の人間の目がある場合のみ可、とか。本当はもっと細々とたくさんあるけど、これはすべてこの質問に答えた後ということが大前提。つまり一番触れてほしくないところを触れなきゃ後の生活もままならんよ、という絶体絶命超絶ピンチ状態なう。ははははは。そう簡単にはいきませんよねー!土方さんと二人きりという状況は大変胸が熱くなりますが、そんな状況を楽しめる余裕なんて今の私にはないわけで。





「ごめんじゃ話になんねえ。吐くか、今のうちおとなしく出ていくかさっさと選びな」





あああなんでこういうときに限って沖田さん助けに来てくれないのかなあ!
散々好き勝手なこと言っておいてこんな肝心な時に姿が見えないとかどういうつもりなのさ!もう正直に話しちゃおうかなあ・・・でもそんなこといって信じてもらえるとは思えないし、むしろ頭可哀相な子だと思われたらもう立ち直れないし。だからって適当なこと言って余計に印象悪くなったらそれはそれで困る。穏便かつ平和的にこの状況を打破するすべはないのか!降りてこい孔明!今こそお前の脳みそが必要な時だ!





「だんまりか?」
「いや、そういうわけじゃないのですが・・・」
「じゃあさっさと話せ。俺もそこまで暇じゃねえ」
「あの、特にこれといって説明できるほどの人間じゃないのです」
「そんなことねえよ。出身経歴一切不明。桝屋にぱっと現れて、しかも長州の事情にも精通してる。説明してほしいところはいくらでもあるぜ」





なんだっけ。土方さんは拷問するのに蝋と五寸釘用意するんだっけ。うん。知ってた。よく存じておりますとも。あああ。なんかもう無理だ。ははは。ちょっと自暴自棄入ってきたぞ。こんな調子で大丈夫か?大丈夫だ、問題ない。





「・・・長州より新撰組のほうが自信あります」
「ほう? なんだ総司の野郎でも懐柔したってか」
「いやそれはなんだか違う気がします。なんだか色々あった気がしますがそれは別です」
「いつ総司とそんな仲になったか知らねえがな。自信があるっていうには理由があんだろう」
「好きだからですよ。私は新撰組が大好きなんです。特に土方さんが好きですけど何か問題ありますか」
「な・・・っ」





鳩が豆鉄砲食らったような顔ってこういうのをいうのかしら。美人さんが呆け面するのはなかなかにおいしいですね!でもすぐに眉間に皺を寄せて私の言葉の真意を確かめようと睨みつけてきますが、ここで一発百万ドルスマイルでもお返しできれば素敵だったんでしょうけど、生憎私の顔の筋肉はあまり柔軟じゃないのでデフォルト状態でお受けいたします。下手に笑ってみせたら沖田さんドン引き評価の≪ニタァ≫になること可能性大ですよ。おかしいな。自分ではアルカイックスマイルのつもりだったのに。きっと見てる沖田さんの心が汚れているからそんな歪んだ受け取り方しかできないんですよ。まったく失礼しちゃいますよね。





「・・・どういうつもりだ?」
「そのままの意味です。私は新撰組の皆さんに憧れています。心から尊敬しているんです。すみません。これ以上は話せば長くなりますがその信念や情熱、生き様にいたく感動しました。中でも土方さんには思い入れがありまして、生家を訪問したこともあるんですよ。それにこれほどまでに武力と指導力にあふれ、野心を持ち、真の侍を目指さんとする姿勢は――」
「熱烈な告白の最中悪いんだけど。それ以上は癪に障るから黙ってくれるかな」





私の言葉を遮って大きく開け放たれた障子の先には遅れてやってきた助け舟――沖田総司が立っていた。・・・しかも妙に不機嫌そうに。





「感心しないですね。あくまで女の子の部屋に2人きりとか他からとやかく言われても知らないですよ」
「とやかく言ってるのはてめえだろうが。・・・道場はどうした」
「きっちり指導してきましたよ。そうそうに使い物にならなくなったので引き上げてきましたけど」





涼しげにそう言い放つ沖田さんは本当に道場で稽古していたのか疑わしくなるほど普段通りだった。汗一つ浮かんでいない様子から指導するというよりも単純に平隊士達を叩きのめしてきただけのようにも見えるのが分かったのか土方さんは大きなため息を吐き、腰を上げた。





「ったく。お前がいちゃ話が進まねえから今来てるっつうのに・・・なぜそこまで執着する」
「執着だなんて。ただ借りがあるから返したいだけ。しかも僕の目の届くところに置いておかないと色々都合が悪そうな知識が豊富なのは分かったでしょう」





無言の応酬。頑なな意思を主張する瞳で訴え続ける沖田さんに対し、これ以上の追求は無駄と思っているようで土方さんはまた一つため息を吐いた。そしてそのまま部屋を去ろうとする間際、少し立ち止まり肩越しに振り向くとばちりと目が合う。





「これが最後だ。――お前は何者なんだ」





これで答えなければ後はない。そう暗に伝えているのが分かって固唾を飲み込み、ぐっと握り拳を作った。さっきまで沖田さんに助けてもらいたくて仕方がなかった問いだが、今は傍にいてくれるだけで自然と自分の中から答えが浮かんでいた。唇の戦慄きに気付いているのか沖田さんは何も言わない。鼻から大きく息を吸って少し止める。そして私は真実だけを言葉にした。





「私は――新撰組の敵にはなりません」
「・・・そうか」





納得してもらえたとは思わない。最後まで土方さんの瞳から疑惑の念が消えることなく感じられたが、正面を向き直ると後ろ手に障子が閉められた。足音が遠ざかると緊迫した空気がぷつんと切れたみたいに力が抜けて、地味につらかった正座を崩して横向きに倒れた。





「怖かったあ・・・」
ちゃん」
「はいぃ?」





置き上がる気力もなく、そのまま沖田さんを見上げる。おお、下から見上げるアングルはまた恐怖心を煽りますね。まるっきり見下されているようなんですがなんでしょう、この不機嫌オーラむんむんな胡散臭い微笑は。沖田さんの方こそその笑みにドン引きですよ。
嫌な予感しかしない、と思った瞬間。トンと頭の横から音がしたと思うと沖田さんの顔が目の前にあった。





「僕が池田屋で言ったこと覚えてる?」
「え。あ、えーっと・・・まあ。はい」
「そのくせに土方さんにあんなこというとか正直舐められてるとしか思えないよね」
「いや、そんなことないです。全然ないですはい!」





距離が近い分、相手の息遣いが聞こえて心臓が痛いほど鼓動する。真っすぐに見つめてくる瞳には私の顔が映っていたが、驚いたことにこんなときでも私は大して表情の変化がなかった。自分では体中の血が沸騰するぐらいに恥ずかしく思っているのに、沖田さんから見た私は冷静そのもの。それに対しどう思っているのか、考えるのも恐ろしかった。





「今後は絶対に土方さんと2人きりにならないで。話すのもだめ」
「・・・善処します。あの、沖田さん」
「なに?」
「それって嫉妬、ですか」
「そうかな。・・・そうかもしれないね」





自分の中に先ほど否定した『執着』が存在していることに気付いて沖田さんは少し困ったように笑った。土方さんの手前そう言っただけなのかと思われたが、本人も意外に思っているあたり本当にそのつもりはなかったらしい。私に覆いかぶさるようにしていた沖田さんが起き上ると一緒に自分も体を起こす。畳に散らばって少し乱れてしまった髪を沖田さんが手櫛で整えてくれた。不意の優しさに思わず俯いていると、髪を一束つんと引かれて顔を上げた。





「君といると自分でも知らなかった自分のことが分かるようになった気がする」





――それが嬉しいようで、少し嫌だな。
そう言った沖田さんの指に巻きつく私の髪は蜘蛛の糸のように絡みついて、するりと指の間を抜けおちていった。


絡め取られそうなのはこっちのほうだ。
自分も沖田さんの髪に触れようと思ったが、手に力が入らなかった。


宇宙誕生から約137億年。地球誕生から約46億年。
そろそろ私は覚悟を決めたほうがいいらしい。














私は上手くってる?
20110112











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