話をしよう。
話と言うからには会話のキャッチボールをするってことなんだけど、今回の場合は私のほうから持ちかけたということで諸君には聞き役に徹してもらいたい。すなわち、訂正する。話を聞いてくれ。






「作戦を確認するぞ。俺と左之は昼飯を作り直す。そんで総司と斎藤は猫担当だ」
「え。じゃあ俺は」
「平助・・・俺たちはお前を信じてる!お前なら出来る!」
「お前の死は無駄にしねえよ」
「骨ぐらいは拾ってあげるから頑張ってね」
「茶菓子を遅れて持っていくことで多少の時間稼ぎにはなるだろう」
「・・・って俺が土方班かよ!」





あはは。新選組幹部の皆さんは本当に仲良しですね。うふふ。屯所に猫乱入とかそんな可愛い事件私の調べでは記録に残っていなかったはずですよ。えへへ。こんな裏話的日常(?)風景を間近で垣間見ることができるなんてタイムトラベルも捨てたもんじゃないですね。






「で、ちゃんはどうする?」






うん!間近すぎ★
私の部屋として宛がわれた部屋にこれだけの人数が集まればそりゃあ酸素も薄くなりますよ。息も絶え絶えで見える世界はただのイケメンパラダイスでした。・・・なんだ。ここは桃源郷か。三途の向こう側はこんなにも光り輝く暑苦しい世界だったのか。大変興味のそそられるところではございますが、ワタクシのような平平凡凡の無辜の民にはいささかハードルが高すぎるのでございます。所詮は一般庶民ですから、こんな高級料理ばかり並べられると味噌醤油の芋っころが恋しくなるのでございます。・・・もう、胸やけしそうなのでございます。






「おーい。どうしたァ?」
「もう・・・私はぬか漬けで十分です・・・」
「心配しなくても下手すりゃ今夜は全員漬け物だから気にすんなって」
「漬物石みたいな土方さんの拳が頭に乗る、って意味で?」
「・・・・・・・・・」






場が凍ったのは、気のせいではなかった。






「と、とりあえずだ!どこでも人数が大いに越したことはねえ。悪いがあんたも手伝ってくんねえか」
「はあ」
「だったら俺と組むべきでしょ。どう考えたって土方さんたち相手に俺一人じゃ無謀すぎるっての!」
「え」






断固として譲らないとばかりに主張する平助君は半ば涙目。たしかに土方さん、山南さん、近藤さんの3人を1人で足止めするのは無理ゲーすぎる。私が行ったところでぴちゅるのは目に見えているような気がしなくもないけれど、隊士の中で一番気軽に接してくれているのはやっぱり平助君だ。着物のお古もそうだし、よく暇を持て余した私の話し相手にもなってくれている。日頃のご恩に報いるためにも今こそ立ち上がるべきなんじゃないか私!必要としてくれている時にこそ応えるべきなんじゃないかな私!たとえ土方さんに新たな懐疑心を植え付けることになろうとも!山南さんに必要以上に目を付けられることになろうとも!!・・・!!?






「・・・頑張れ。魁先生」
「おまっ!見捨てるっていうのかよ!」
「まあ当然だよね。彼女が部屋の外に出ること自体問題視されかねないわけだし」
「というわけですので、私は猫係でお願いいたします」
「おっし。じゃあ班分けも決まったところで各自全力を尽くせよ。解散!」
「無茶すぎるってば・・・」






平助君の訴えもむなしく、一同はそれぞれの持ち場に立った。私がなぜ猫係を希望したかって、そりゃあ答えは1つしかないでしょう。はい、そうです。現代っ子の私が江戸時代の調理場で役に立つわけがないからです!・・・まあ、事実なのだから仕方がないでしょう。女子としてこれほどまでに虚しいことはありませんが、自力で火を起こせるような女子力、私は持ち合わせておりませんよ!もう皆本当に漬け物でいいじゃない!






「・・・さて。僕たちはどこから探そうか」
「闇雲に探しても埒が明かない。まず猫の目撃情報を求めるべきではないか」
「ではそういうことで――、」






私の言葉尻に被さるようにして聞こえてきたのは、子供の泣き声。屯所の外から響くその声に一先ず足を向けるとそれは八木家の息子のもので、瞳からぽろぽろと大きな涙を零していた。






「ど、どうしたのかな?」
「うわぁああああん!」
「何かあったならこの能面みたいなお姉ちゃんに話してごらん」






誰が能面だ。私の表情筋は普段怠けているかもしれませんが、ここぞというときに真価を発揮する省エネ対応の次世代機なのですよ?しかも相手が子供となれば自然と頬が緩んでしまうのは自然の摂理ではありませんか。それに沖田さんみたいな卑屈な大人には分からないかもしれませんが、これからの時代を担っていく子供たちの独創性というものは侮れないものですよ。我が家の近所にあった自然公園へ遊びに来ている子供たちは私自身無表情だと認知しているデフォルト顔でさえ笑顔を向けてくれるのですよ?通りすがりに私を見かけるたびにわざわざ指差してきて笑いがとれるなんて、世のお子様たちは人の顔色まで読めるインテル搭載モデルじゃないですか!やはり純粋な子供には私を理解してくれるのですね。大丈夫です。この時代のお子様にだって、私にかかればすぐに笑顔を取り戻してくれるでしょう!そしてあわよくば逃げた猫の目撃情報も得ることができれば私の株も急上昇ってわけですよ!!
 そんな思惑の元、子供の目線に合わせてしゃがみこむと私に気付いたのか顔を上げた。そして、八木家の息子はなぜだかひと際大きく泣きだしてしまった。な、なぜだ!解せぬ・・・!






「あはははは!ちゃん怖がられてるみたいだね」
「そんなはずではっ」
「・・・この傷跡は?」






私の見事なブロークンハートにも関わらず、斎藤さんは依然として泣き続ける子供の手の甲に3本の引っかき傷らしきものがあるのを発見した。・・・ああ、これが怪我の功名っていうんですかね。八木家の息子がおそらく例の猫に引っかかれたのは容易に想像できた。あとはこの子を泣きやませて、猫がどっちに行ったのか聞き出せれば上々だ。






「ひとまず屯所から軟膏を持ってくる。あんたたちはここで少し子守を頼む」
「・・・泣いてる子って苦手なんだよねえ。まだこの辺りに猫がいるかもしれないから後はよろしく」
「え。あの!ちょっと!?」






斎藤さんが屯所へ向かった直後、沖田さんはそう言い残して早々にいなくなってしまった。そして誰もいなくなった・・・ならまだ楽だったんでしょうがね。泣きやむ様子のない子供を前にして私は力なくうなだれた。






「ほら。男がそう泣くんじゃないぞー」
「うぅ・・・えっぐ・・・うう・・・っ・・・」
「とはいえまだ君は子供だからね。秘密のおまじないを掛けてあげようか」
「・・・うう、お、おまじ、ない・・・?」
「うん。私のおまじないはすごいからね。ほら、おいで?」






両手を広げると無意識なのかその意図を読み取って首に腕をまわして抱きついてきた。そのまま支えて抱えあげると鼻を啜る音が耳元で聞こえる。肩を震わせてしゃくり上げる小さな体を擦ると幾分大人しくなったように思う。空は青く晴れ渡って、心地よい風が吹いている。直射日光を避けようと日影に移動してゆりかごのように体を揺らしている間に腕の中の熱がずっしりと重くなっていた。






「あれ。眠っちゃうのあっという間だったねえ」
「・・・軟膏はいらなかったようだな」


「!?」






背後から降ってきた声に思わず大きく肩を揺らす。幸いにも子供は起きてしまわなかったようだが私の鼓動は早鐘打っていて、それを誤魔化すように小さな背中をぽんと撫でた。隣に立った斎藤さんは私の腕の中にいる子供を見て、どこか少しほっとした様子でいる。せっかくだから消毒に、と斎藤さんは軟膏を指にとって傷口に薄く塗ると子供がむずがり、慌てて手をひっこめた。






「そんな慌てなくても一度寝入っちゃえばそう起きませんよ」
「そ、そうなのか・・・?」
「子供なんてそんなものですよ」
「そうか」






再び腕を揺らし始めると、また涼しい風が吹き抜ける。ふと私はなぜこんなところで子供を抱えながら斎藤さんと涼んでいるのか不思議に思えてきた。おそらく斎藤さんもそれに気が付いたのだろう沖田さんの行方を探そうと辺りを見渡すと、ちょうど日影になった門の敷居に毛むくじゃらの塊があった。






「なんだかもう・・・あそこまでいくと敷居を踏むっていう無礼さじゃないですね」
「猫、だからな。丸くなって寝るにはいささか暑苦しいのだろう」
「でもこれはいくらなんでも自由すぎるとは思いませんか」
「・・・猫・・・だからな」






昼寝をするには絶好の日和であった。こんな日に堂々惰眠をむさぼることが出来るのは子供か猫ぐらいのものだろう。でも、泣きつかれた子供だって大人しく寝ているというのにこの猫のふてぶてしいことこの上なく。敷居の上でお腹を向けて体を大の字に広げる姿は愛らしいというにはどうも腑に落ちない。


捕獲した猫を竹かごに収容する際、何度かひっかれた斎藤さんに軟膏を塗っていると土方さんの怒声が屯所内に響く。心の中で平助君への黙祷を捧げていると、どこから湧いたのか茶菓子を抱えた沖田さんが縁側から手を振っていた。・・・なぜだろう。昼寝する猫を見つけたときのような虚脱感と言いようのない怒りを沖田さんに感じたのは私だけでなく、斎藤さんも同じようだった。














有っても無くてもの尻尾
20110321











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