広間には新選組幹部が揃っていた。
直接話したことがあるわけじゃないけど、昨日今日でだいたい顔と名前は一致した。私と沖田さんが到着したときにはすでに報告会は始まっていたらしく、突然空いた戸に一同の顔が向く。
「総司!もう起きて平気なのか?」
「大丈夫ですよ。傷のわりにちょっと血が出すぎただけですから」
近藤さんと思しき人ににこやかに応える沖田さん。・・・正直、きもちわるい。いや!違う!そうじゃなくて!だってほら!だってこの人のこんな邪気のない笑顔なんて出会ってから初めて見たから!何この純粋な子供のような爽やかさ!ぶりっこか!大大大好きな近藤さんだけに送る沖田の百万ドルスマイル(¥0)か!
入ってすぐ下座に着くと、今度は相変わらず異質な存在である私に注視が向けられる。
その内の一人である平助君とは着物を借りるときに少し話をした。率直に向けられた「あんた、何者?」という問いに私はなかなかに哲学的な質問だ、なんて的違いなことを考えた。結局は曖昧に答えるだけだったが、それでも平助君は平助君なりに私のことを理解してくれたらしい。最後には「お前も苦労してんだな」なんて言い出すからきっと彼の中で様々な超解釈がなされたに違いない。まあ、それでいいならそれで都合はいいんだけど。どうしよう。中二設定とかつけられていたら。私の左手は正常ですよ!第三の目なんてありませんよっ!
「副長。このまま報告を続けてもよろしいでしょうか」
「構わねえよ。別に聞かれて困ることでもねえだろ」
「土方さん・・・そもそもこの子、何者なんだ?」
「それはこの後だ。ったく、全部順番にやるからちっとは黙ってろ」
「へぇへぇ」
永倉さんが身をすくめて黙ると、山崎さんが報告を続ける。内容はやはり池田屋のことだ。襲撃後の後処理から長州勢の動き、こちらの被害など。淡々と告げられる現実が、徐々に歴史書をなぞるだけの感覚でなくしていく。現場で感じた殺気や緊張感。むせ返る血の臭いに怒声。暗闇。もちろんまだ新選組という存在に対してミーハーな気持ちだって残ってる。今だって目の前にいる本物の土方歳三にドキがムネムネ(死語)で頭がスパークなう、だけど!やっぱり現実は違うなあ、というのが率直な感想だった。そしてその報告も現代に語り継がれているものと大差ない。史学者ぱねぇ。大体あってる。・・・でも、ただ一つ。一か所だけ決定的に私の知識と違う点があった。思わず「あれ?」とか言っちゃいそうだったけど。いや、ここで口出ししちゃまずいだろ。さすがに長州の事情とか知ってたら不自然すぎる。いや、うーん。でもまあ、こっちのほうが合っているんだろうから余計なこと言わない方がいいよね。リアルタイムで報告されてるんだもん。ここは史学者先生の敗北っていうことで――
「ちゃん。何か言いたそうだね」
「へ?え、あー。いや・・・」
はい!沖田ぁああああ!!なんつう話の振り方!?今私≪まずい≫っていったばっかりだよね!?ねえ!?ここは空気読んで!あえて空気読んで!逆に空気読んでぇええ!!
「オイそこ。ムダ口叩いてんじゃねえぞ」
「まあ、待ってくださいよ。ほら、なにか知ってるならいってごらん?」
MA TA KA YO !!
いやだからこれはさすがにヤバいから!なに話も聞かないで口割らそうとかしてんのぉおお!?明らかにこれ言ったら不自然だから!!お前まさかあれか?私の間者説をまだ引っ張ろうっていうのか!?さすがにもうキツイから!もうやだまた皆さまの視線が・・・っ!痛い。痛すぎる!やだよ・・・変に話したくないよ・・・絶対怪しまれるよ・・・もう怪しまれてるけど・・・。あ。あ。あー。奥さん。奥さん見ました?この男、笑ってやがる・・・!さっき近藤さんに向けた笑顔と185度回って行き過ぎちゃったぐらいに違う笑みですよ。はっはっは・・・もう・・・この人が何考えてるのか本当分かんない・・・。
「あの・・・いや、私の知っている話と少し違っていたので・・・その・・・」
「ふーん?たとえばどこが?」
「・・・・・・えっと。先ほどの長州藩の――」
しんと静まり返る広間に私のたどたどしい声だけが響く。ちらりと視界に入った山崎さんの眉間にはすごく皺が寄っていて、いたたまれず段々と頭が垂れていく。そして締めに「・・・たぶん」という日本人御用達の予防線を張ってから沖田さんを見上げると『よく出来ました』と言わんばかりの表情。なんだ・・・私は飛んでいったフリスビーをキャッチして戻ってきた犬か。こんにゃろう。後で覚えてろ!
「その情報の出どころはどこだ」
「え」
「どこから仕入れた情報かって聞いてんだよ」
「それは、その・・・」
本で読みました! みゃは☆
・・・言えるわけがない。
しかもさあ。こんな史実確認の難しい話なんてしたくなかったよ!せめてさぁ!会合は池田屋でとか、禁門の変では薩摩が協力態勢でとか教科書に載っても恥ずかしくないレベルにしてほしいんですけど・・・どうしよう。これは誤魔化せないよ。こんなの池田屋後からずっと屯所にいた私が知るはずないもん。どんなアリバイトリックだよ。自分で証明できちゃうよオイ。
「ちゃんは――遠くで起こっていることがなんとなく分かるんですよ」
「はぁ?」
「・・・・・・はぁ」
「おいおい。そりゃねえだろ」
「まじかよ!!」
ダメだ・・・こいつ早くなんとかしないと・・・。
平助君ごめん。中二設定に走ったのは沖田さんだったよ・・・。広間に「さすがにそりゃねえよ」というオーラで溢れ返ると沖田さんはわざとらしく笑い声を上げた。
「半分冗談ですが、半分は本当ですよ」
「んな回りくどい言い方してねえではっきり言ったらどうだ」
「はあ。せっかちな人だなあ・・・そんなのだから情緒のない直接的な歌ばかりになるんですよ」
「い、今そんなこと関係ねえだろ!!」
「わわわわたしは土方さんの歌すすすきですよ!?」
「おおう・・・ありがとよ、って。あ゛ぁ?!」
うわああ地雷踏んだぁあああ!!
だって!だって!本当は土方さんにいつこの熱いパッションをぶつけようか気が気じゃなかったんでししゅよ?!うわ噛んだ。ここは思いのたけを告白するタイミングだと空気読んだんですが!あえて空気読んだんですが!逆に空気読んだんですが!!
「あはははは!ちゃんなら歌も全部暗唱できそうだよね」
「もちろんです! 公用に、出て行く――」
「だぁああああああ!!」
口を塞ごうと伸びてきた手が横に逸れたかと思えば、自分の体が強い力に引っ張られるのを感じた。土方さんが私の隣を横切ったのを、ぼうっと見ていたつもりが沖田さんに腕を引かれて立ち上がっていた。本当に負傷しているのかと疑いたくなるような軽快な動きに一瞬仮病を疑ったが懐から包帯が少し見える。そのままの勢いで広間から飛び出すと背後から土方さんの怒鳴り声が背中に突き刺さった。やだ本当に怖いんですけど・・・!!?
沖田さんは少し立ち止まって振り返ると、広間にいる全員に届くように声を張り上げる。
「この子が言っていることが合っていたらそれ以上追及しないでください!それから、この子は僕が飼います!」
「はあ?!」
最後の叫びは果たして土方さんだったか、自分自身だったのか。
おそらくそこにいた近藤さん以外の全員のものだったに違いなかった。
合縁奇縁も狂気の沙汰
20101021
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