昼休みは秋丸のクラスで弁当を食うようになった。
秋丸とは同じクラスなのに俺だけ別で仲間はずれにされたような気分だったとはぜってえ言わねえけどあの2人にはばれてんだろうな。だからといって別には一緒に食べるわけじゃない。でクラスの友達と食べてるからわざわざ俺が2人のクラスに行っても何がどうこうってわけでもない。ただ俺が嫌だっただけ。


教室の入り口に差し掛かったところでと鉢合わせた。「おう」と声を掛ければ「元希は秋丸君にべったりだね」と意味わかんねえ言葉を残すと、笑って1人廊下に出て行きどこかへと向かうその背中が見えなくなるまで目で追った。








「はあ?」








べったりって。俺がいつそんなことをした。一瞬何を言ってんのか言葉通りに想像したら気持ち悪くて、すでに弁当を広げてる秋丸の椅子を蹴ってからその前の椅子に座った。窓際の真ん中はいつも空いていて毎回勝手に借りてるけど文句言われたことないから別に問題はねえと思う。「やめてよもう」と座りなおす秋丸を尻目に自分も購買で買ってきたパンに齧り付いた。








「まったく見せ付けないで欲しいよね」
「何がだよ」
「榛名とちゃん」








こいつもこいつで何言ってんだ。咀嚼していたパンをぐっと飲み込むと俺が分かってないのを察したのか心底めんどくさそうにため息をつかれた。何なんだよお前らは。人の顔見るなりキモイこと言ってきたり、ため息ついたり段々イラついてきて膝で机を下から蹴り上げると大きく揺れた机の音が響いた。別段秋丸は驚いた様子もなく弁当のおかずを口に運ぶ。








「さっき1人で外行ったでしょ。あれ、男子から呼び出されてるみたいなんだよね」
「……なんでお前がそんなこと知ってんだよ」
「最近増えてんの。なんかあの清楚っぽいところがいいんだってさ」
「ぶっ」








「きったねえ!」と自分の身ごと弁当を避けられた。いやそんなことどうでもいい。思わず噴出した口を手で拭う。あいつが? 《清楚》? 人の体ばっかじーっとガン視してるようなアレが? 思い出せば余計に腹がよじれるぐらいの笑いが止まんなくて目に涙が溜まってきた。全然笑いが止まんなくて本気で腹が痛い。「誰だよそんなこと言ってるやつ」息も切れ切れに聞けば、秋丸は自分の弁当を膝の上に確保して続ける。








「さあ。あーでもこの間サッカー部だか柔道部だかの奴らが練習中スケッチしてたちゃんの熱視線にやられたとかなんとか」
「ぶふっ」








「だから汚いって!」手で口を覆っても堪え切れなくて今度は気管がおかしくなったみたいに咳が出た。もう無理。ぜってえこいつは俺を笑い死にさせる気だ。そしてをそんなふうに捉えてるやつらも。秋丸自身も苦笑していて、同中のやつらがこの話を聞いたら100パーセント爆笑すんだろう確信がある。中学ん時にも似たようなことがあったことを思い出して、そういやあのバカは元気してんのかななんて懐かしくも思う。一通り笑った後に持参した牛乳パックを一気に飲み干した。食道を伝う感覚がリアルでどんだけ笑ったんだよ俺、と落ち着くまで時間がかかった。








「あの変態に完全騙されてっぞ」
「勘違いするだけ勝手なんじゃない? 実際それを知らなければ相当かわいいよ」
「そうかあ?」








最後の一口を口に放り込んで咀嚼する。と《かわいい》という言葉がどうにも結びつかなくて自然と咀嚼する回数が増える。ガキの時からずっと隣の家で、俺が本格的に野球を始めるまではへたくそな相手にキャッチボールをしてたことがある。元々家に引きこもりがちで根暗だったあいつを外に引っ張り出すのは俺の役目だった。最初は俺の球が全然取れなくて――俺が適当に投げてたせいもあるけど、ただでさえ運動神経が切れてるようなには酷なことをしたと今になって思う。それでも楽しそうに笑うから大して気にしたこともなかったし、その時の笑顔が今もちゃんと覚えてる程度には可愛かったのかもしんねえ。それから部活で他に野球をする相手ができてからの相手をすることはなくなった。それでもあいつは傍にいた気がする。初めてユニホームを着て試合をした日にはもうはスケッチブックを抱えててずっと俺ばっか描いてた。だけど今更に《かわいい》とかそう考えるのが何か変にむずかゆくて、あえてそう見ないようにしてた気がしないでもない。








「榛名は宮下先輩一直線だもんねえ」
「ばっか! てめっ……でかい声でいうな!」








がたんと椅子を飛ばして机に手をかけると、涼しい顔をして「榛名のほうがでかいから」と教室を見回した。それに釣られて周りを見れば慌てたように目を逸らされて、自分の顔が熱くなるのが分かる。これ以上余計な詮索はされたくなくて、ゆっくり席に着く。こんにゃろうと睨みつければ秋丸は頬杖をついていて、空いた手がすっと窓の下を指す。「今度はなんだよ」俺はそっちを見下ろせばさっき見送った背中があって、誰か知らないやつと向き合っていた。昼休みの裏庭とか白昼堂々潔すぎていっそ憐れにも思える。秋丸と2人して眺めてると、そういえばこの前俺もあそこに呼び出されたのを思い出した。あの時はすっげえ眠くていらいらしてた記憶しか残ってないけど、まあいつものことで結構嬉しい。秋丸には「お前ばっかり」と恨み言を吐かれて少し優越感があった。だけど、こうして人が――が誰かに告られてるのを見るのは初めてで、どうにも行く末が気になった。


に彼氏ができるのも、俺がに対してかわいいとか思うにしても、どっちにもそれぞれ違和感があって今以外の別のなにかになるのがまるで考えつかない。ただ目下にいるが頭を深く下げるのを見て、どこかほっとしてる自分がいるのは間違いない。そんな俺を秋丸は気づいたのか「榛名は分かってない」と心底残念そうにいうから「分かってないのはお前らだ」お前はあいつの何を知ってるんだ、と再び窓の外に目を向けた。


あいつのスケッチブックに俺以外の誰かでいっぱいになると思うとなんだか、複雑だった。














青鈍ピッチャー















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